妄想劇場 28

(こちらは完全に妄想の物語です。
実在の人物や関係者とは全く関わりありません。)



紅白当日 2






ぶーん。ぶん。ぶーん。ぶん。
誰だ。朝っぱらから。
いや。まて。今何時だ?
とりあえず電話を探す。


ん…もしもし…


誰からの電話なのかも見ずに出る。
しかも朝ですから。いつもの声が出てない。
寝惚け声ですみません。半分まだ夢の中ですので。


「かおるさん?」

星野さん…?

「おはようございまーす。」

…はい。おはよーございます…

「寝てたの?」

うん…今起きました…


星野さんの優しい声を聞いて少し脳が覚醒し始める。
なんて素敵な目覚め。


…どーしたんですか?

「あ。いや。かおるさん正月って休みいつまで?」

3日までだったと思います…

「ですよねぇ…」

あ。でも4日が初仕事だけど、年始の挨拶だけだったかな?で5、6が土日なんでまた休みですよ?


4日が平日だから。有給取る程連休に執着は無いし。
取ったからとどこか行くところがある訳でもない。
本格的に仕事が動き出すのは7日の月曜日から。
年始の挨拶なんてすぐ終わる。それから社屋の周りを全員(有給取ってない人達)で清掃して。
その日はそれで帰れるはずだ。


「そっか。」

星野さん…寝れましたか?

「え?あ。うん。寝れました。」

よかったです。

「かおるさんは?」

んー。だいぶと…ゴロゴロしてましたね…

「ゴロゴロ?」

なかなか寝れませんでした。興奮しちゃったみたいです。

「ふははっ。興奮してたの?」

そりゃ…しますよ…

「かおるさん。素直でよろしいですね。」

ありがとうございます…

「じゃ。また後で。」

はい。また後で。


実際寝れなかった。
星野さんが帰ったあともしばらく玄関で立ち尽くし。
何が起こったのかの頭の整理がつかない。
いい加減寒くなりリビングへ戻った。
とりあえず…脱ご。
雪女装備を。
帯締を解き、帯揚、帯枕の紐をほどく。
背中でねじって合った手先とタレ先が緩みストンと帯が落ちる。
ほらね?これは色っぽくないでしょ。
着物を脱ぐ。
襦袢姿の自分を鏡で見て…星野さんに言った言葉を思い出す。「長襦袢はエロいんです。」
それほどでもない。

あ。半衿付け直さなきゃ。明日のあのコーデなら。
黒地の半衿がいい。どうせなら長襦袢も黒地にしてやれ。

襦袢姿のまま寝室へ行った。
そこにはさっきの残骸。って言うと意味深だけど、要は明日のコーデがベッドに乗ってるだけ。
着物をキモノハンガーにかける。
襦袢探さなきゃ。半衿も。

なんだかんだやってたら割と遅くなった。
けどこのまま寝れない…
半衿を縫い付けながら星野さんがチラチラ頭の中に出てきて。3回も指を刺してしまった。
おかげで絆創膏だらけ。

和裁士ではないのでそんな大したことは出来ない。
衿付けくらい。
袖がほつれたりした時は由美ちゃんにお願いする。
この世界に入った時に和裁も習いたいなんて思ったことはあるけど。そんな暇がある訳もなく。
自分で出来ることだけはやるけど、あとはプロに任せる。あ。着付けの資格だけは取ったな。販売員時代に。
資格を取ったからとめちゃくちゃ役に立ったことはない。今回までは。
今思えば取っといてよかったよね。

もうお風呂入って寝よう。
とシャワーに向かった。

寝支度してから布団に入ってもなんだかんだ思い出すのはほんの2時間前の出来事。
頭の中が真っ白になったのは初めて。
キスがあんなに気持ちいいものだとは。
星野さんが…慣れてるのね…。
数々の女性を虜にしてきたんだろう。
目を閉じても…思い出すあの感覚。
文字通り。寝ても覚めても。
いや。寝なきゃ。ここは。
そこから明け方近くまで布団をゴロゴロしていた。
やっと…(疲れて)意識が飛んだ。
それから…多分6時間かな?星野さんの電話で起きたから。

時計を見ると昼の12時45分。
わたしの集合時間は7時だけど…少し前に行ったとしてもそんなに劇的に変わる訳でもない。

星野さんの控え室で時間を潰すにしても…邪魔にはなりたくないし。いや、多分いるだけで星野さんは気が散るんじゃないだろうか。
そこはプロの芸能人(?)上手いこと隠すのだろうか。

ダメだ。わたしの気が散る。今日は1人で運動会なんだから。8人連続着付けの耐久レース。

とりあえず…お昼ご飯でも作るか。
適当にお昼を済まして。ちょっと買い物に出かける。
晩ご飯は年越しそばにして。食べてから会場に向かおう。
ちょっと早い夕食だけど会場入りしてしまえば食べる時間なんてないはずだから。
スーパーでそばと出汁と。あれ。年越しそばって何入れるんだろう。
まぁいっか。食べすぎてしんどくなるよりはマシなので。腹八分になるくらいにしとこう。
スーパー内をうろついていると。聞き覚えのある声が店内有線から聞こえてきた。


「あ。ホシノゲンだ。この曲いいよねー。」

「うんうん。私も好きー。」

「紅白見なきゃね」

「録画よ!」


若い女の子2人の会話が聞こえてきた。
その人と…キスしてしまいました。ごめんなさい。
とふと思った。
わたしの知ってる星野源と彼女達の言ってるホシノゲンは同じ人物。
それでもたまに…本当なのかわからなくなることがある。

適当すぎる買い物を済ましてまた部屋に戻った。
冷蔵庫に買ってきたものをしまい込み、ソファに座って今日のコーディネートを見る。
昨日の夜ハンガーにかけてあの姿見の端っこにかけておいた。
明るいグレーの着物に渋めの赤い帯。なんで星野さんはこの組み合わせにしたんだろう。
ボーッと着物を見てたら電話が鳴った。

「今度の土日はなんか予定入ってますか?」

星野さんからLINEだ。
土日?特に何も入ってはなかった。とゆーか予定を入れようなんて考えもしてなかった。

「今のところは何もないです。」

「初詣行きませんか?」

何を言い出すんだ…この人は。初詣ね。
まぁ予定が無いと言ってしまった以上断る理由もない。むしろ。次会う予定を入れようとしてくれて嬉しい。

「素敵ですね。いいですよ」

「じゃ土日は空けといてくださいね」

「わかりました。」

土日空けとけ?
神社のハシゴでもするつもりだろうか。
え。もしかして…続きするんですか…
半分夢の中の出来事だったんだと脳内処理が終わりかけていたため。
またいろいろ思い出してしまった。
もー。今日どんな顔して会えばいいんだ。
星野さんには平常心を取り戻せと言ったが。
わたしが保てるか自信が無くなってきた。
そば。そば作ろう。
こんな事ならそば粉から買ってきて手打ちにすればよかった。無心でやれば少しは気が紛れたかもしれない。

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