妄想劇場 26

(こちらは完全に妄想の物語です。
実在の人物や関係者とは全く関わりありません。)



オムライス2




お邪魔しまーす。


そう言って勝手知ったる我が家かのようにリビングへ向かった。
ここはかおるさんの部屋。
明日は紅白本番。
今なんでかおるさんの部屋にいるか…
なんでだっけ?あれ。
喫茶店で繰り広げられた会話を思い起こす。
…あ。オレが言い出した事か。

ここまで早歩きでめちゃくちゃペースよく歩いて来て。寒空の下それがすごく気持ちよくて。
かおるさんはなんかめちゃくちゃ焦ってて。
なんで?って聞いたら…

「壁に耳あり障子にメアリー」

なんなのそれ。
面白すぎるんです。この人。

リビングに入って少し配置の変わった部屋を眺めた。
この前クリスマスイブに来た時とほんの少し違う。


テレビの位置変えたの?

「あー。はい。その方が部屋が広くなりました。」


確かに広くはなった。
でも見にくくない?この角度…
大きな窓に向かって直角になってるテレビ。
ソファがギリギリ届いてない。


でも…これじゃテレビ見れないよ?

「あまり見ないから…いいんです。その代わりほら。」


かおるさんが大きな布をサラッと上げた。
大きめの姿見。


「これを置きたかったんです。」

デカ!

「これなら全身映るから」

コーディネートチェック用?

「そうです。あとは帯を結ぶ時に見るけど」

へぇー。


やばい。エロい妄想をしてしまった。
そもそもなんだって彼女はオレを部屋に上げた?
喫茶店で断ることも出来たよね?
オレが言い出した事を真に受けて??
いや、確かにやったことない着物のコーディネートだからふっとやってみたいなって思った。
どうせならオレも見れる明日のコーディネート。
実は今日のかおるさんはオレプロデュースって内心ムフフってやりたかった…だけ。
ほんとに実現するなんて…いや期待してなかったわけではないんだけど。
一応コーディネートし終わったらすぐ帰れって釘も刺されたんだけど。
そんな口約束この状況で…守る男なんているの?


「どうします?コーヒー飲みます?」

え。あ、はい。いただきます。

「なんで星野さんが動揺するんですか?」


もう誰かに見られてるかもって恐怖心から解放されて。いつもの柔らかく笑うかおるさんに戻ってる。
ヤカンに水を入れて火にかけた。


今日は着替えないんですか?

「え?」

いや。この前は着替えてたでしょ?

「深い意味はないんだけど…正直目の前のオオカミさんがちょっと怖くて…」

雪女武装が解けないってこと?


赤くなりながら頷いた。


「なら断ればいいのに…ね。」

なんで…断らなかったの?

「星野さんほんとにコーディネートしたそうだったし。…もう少し…わたしも…」

もう少しわたしも…なに?


やばい。ドSなオレがムクムクと闘志を燃やし出してる。逃げて!かおるさん!!理性vs本能の戦いのゴングが頭の中で鳴った。


「言わせるんですか?」

言わせたいんです。

「意地悪ですね」


ヤカンが蒸発したぞーっと鳴り響く。
うるさい。
ピーピーうるさい。
かおるさんが止めようと動いた。
頭で考えるよりも先に身体が動いた。
コンロに向かって立つそばまで行き、火を止めるかおるさんの後ろ側から抱きしめた。


「星野さん…?」


後ろからは帯が。邪魔。
かおるさんをクルッとひっくり返す。
ビックリした彼女の目がオレを映す。
少し怯えた。子ウサギの目。
その目をあの妖艶な雪女の目に変えたい。
でもその前に。
その目から怯えを消したい。

今度は前から抱きしめた。
かおるさんの髪の毛は短くて柔らかい。
首の隙間に顔を埋める。
顔に当たる髪が少しくすぐったい。
不思議な匂いがする。
なんだろ。お香?
どっちにしても懐かしいような新しいような。

かおるさんがオレの背中に手を回してきた。
ちょっと首を離して顔を見ると恥ずかしそうに斜め下を向く。
はい、逆効果ー。長いまつ毛はオレを誘ってるようにしか映りませんよ?
ちょっと屈んで。すくい上げるように唇を乗せた。

誘ってるんでしょ?
違うの?
声には出ないけどちゃんと答えてくる唇。
確かめたいけどまだそこまではしたらダメか。
顔を少し離した。
かおるさんどんな顔してんだろって。
覗き込んだら。
めちゃくちゃ赤くなってて。
可愛すぎて続きをやるのをやめた。
理性vs本能の戦いは理性に軍杯が上がった。


約束破っちゃってすみません。

「ほんとです。」

抑え効かなかった。

「…わたしもです…」

雪女武装しといてよかったですね。
服だったら止まんなかった。

「…」

コーヒー。入れてくれるんでしょ?


大人の余裕。
見せますよ?
本当はそのまま続きをやりたいの。
でももういっそのことどこまで我慢出来るか試してやろうと思って。
かおるさんが雪女の武装を自ら解く瞬間を待とうかと思って。
その目がオレを誘ってくるまで。


「…はい。」


かおるさんはコーヒーを入れ始めた。
ありゃー。ちょっと動揺させちゃったかな。


「すーはー。」

ふははっなにそれ。

「深呼吸です。落ち着けーっと思って。」

かおるさんだけじゃないですよ?

「え?」


コーヒーを持ってきてくれた彼女の手からカップを2つとも取り上げテーブルに置きソファに座らせた。
そのまま彼女の手を取りオレの左胸に当てる。


ほら。

「ふふっほんとですね」

着物って後ろから抱くのに向いてないですね。

「帯がね。邪魔でしょ。」

でもその分正面からは密着度が全然違う。

「胸も潰してあるからその分近くなるかもしれないですね…」

潰してんの?

「寸胴に見せるのが綺麗に着るポイントですから。」

苦しくない?

「慣れですね」

大変なのね…

「さぁ。コーディネート始めますか?時間も時間ですし。」

そう…でしたね。

「忘れてたの?」

さっきので。どうやったら脱がせるかとか考えちゃって。

「やっぱりオオカミですね」

男はみんなそうですよ?

「言っときますけど。今後の参考に。
着物自体を脱がす時はそんなに色っぽくないんです。
どっちかと言えば解かないといけないものが多すぎてめんどくさいので。あーれーってくるくるも回りません。
そこを根気よくちゃんとやれば…長襦袢姿は…エロいんですよ?」

なにそれ。誰に教えて貰ったの?

「春画?」

は?

「ほら。浮世絵とか」

あー。えー?
そんなめくるめく感じなの??
もー。かおるさん。あなたほんとに面白いわ。

「そうですか?ふふっ」


雪女の余裕が戻ってきた。
さっきよりも艶やかさが増した雪女。
その余裕はどこまであるのか試したいのに。
今夜は負けておきましょーかね?

明日のかおるさんのコーディネートを決めるために前回は入れなかった寝室に入れてもらった。
シングルベッドがひとつ。
和ダンス。ウォークインクローゼット。ベッドサイドテーブル。ランプ。
以上。
オレの部屋も大概物が無いけど…かおるさんも余計な物が全くない。
ぬいぐるみとか可愛らしいものも全く。


「さて。何から決めましょうか?」

と。言われても。

「ふふっそうですよね。じゃまずは着物の色から決めましょうか。」

何色がある?

「そうですね…ピンクはありません。どっちかと言えば渋めの色合いが多いかな?」

白は?

「白?」

白組だから。オレ。明日。

「なるほどね…真っ白はなかったかも…」


そう言ってタンスを開け始めた。
白組だからってのは後付け。
オレ色にこの雪女を染めたいって願望を込めただけ。


「これはどうでしょう?真っ白ではないけど…明るいグレー」


かおるさんがタンスから出してきたのは生地に模様が入って光が当たると少しキラキラするキレイなグレーの着物だった。


すげーきれー。

「お気に入りです。」


そう言ってふわっと笑った。
ほんとに着物が好きなのね。


「次は帯ですね…」

赤ある?

「紅白になりますね?」

ふははっ。


赤はオレの好きな色なんですよ?
だんだんとオレ色に染まればいいの。
あなたはオレのもの。

またタンスをゴソゴソ。
その後ろ姿が…あー。なんで理性勝っちゃったかなぁ…


「赤。ありました。」


かおるさんが取り出したのは真っ赤な生地に1輪の黒いバラの柄の帯。
なにそれ。エロいー。


「ちょっと…挑発ぎみ??」

挑発してんの??

「なかなか結ばないです。これ。」

他に赤はない?

「んー。赤ねぇ…」


ベッドに腰掛けてみた。オレの体重でギシッて音がした。
ここにかおるさん寝てんのかー。
ムフフ。


「これはどうですか?」


真っ赤とまでは行かない。赤ワインみたいな深めの赤い帯。
金色の糸で細かいレースみたいな模様が描かれている。


こっちがいい。

「ではあとは帯締と帯揚ですね…」

帯締?

「これです。帯の真ん中の組紐が帯締。帯の上の色が帯揚」

オレにも見せてよ。それ。

「どうぞ?」


タンスを開けた状態でかおるさんが少し横にズレてくれた。色とりどりの紐(帯締?)と生地(帯揚?)がキレイに並んでいる。


「いつもはもう少しぐちゃぐちゃなんですけどね…昨日片付けしといてよかった。」


オレは立ち上がり、彼女の横に膝まづいてその引き出しの中身をのぞき込む。
どれがいいかなぁ…ってゴソゴソしてるかおるさんの横顔を見た。


「ん?なんですか?」


そのまま近ずいて口を封じた。
ちょっとビックリしたかおるさん。でもすぐ応じてくれて。さっきよりも長く深い口づけ。
理性vs本能の戦いセカンドラウンド。
たまに呼吸しなきゃって口が少し離れる。でも酸素少し吸い込んだらまたくっついて。
角度変えながらお互いに吸い付く。
やーばい。吹っ飛びそうなくらい気持ちよすぎる。


キスってこんな気持ちよかったっけ?

「頭の中真っ白になります…」


やっと唇を離して抱きしめた。
タンスの引き出しは開いたまま。お互い膝まづいたまま。


多分この匂いのせい。

「匂い?あー。お香ですね。匂い袋を引き出しに入れてます。」

その匂いと。この匂いがたまんない。


彼女の首筋を舌でなぞる。
かおるさんから吐息が漏れる。
ここに…印付けたら怒られるよねぇ。
着物では隠れないとこだもん。


やーめた。
続きはまた。

「え?」


さらに艶めきを目に宿した雪女。
そんな目で見られたらせっかくやめようとしたのにやめられなくなりそうです。


オレの跡付けたら明日大変でしょ?
だーかーら。


彼女だけじゃなく自分自身を諭すように。


その代わり…仕事全部終わったら付けまくるから。

「ふふっ楽しみにしときますね?」

何その余裕。

「星野さんがブレーキ効く方でよかった。
今のはわたしは効かなくなりかけたから。」

そうなの?

「そうですよ?」


おでこをくっつけた。


思ってた以上に…雪女の罠に深くハマってるみたい…

「…わたしはオオカミの罠にハマってるのかと。」

明日…オレ普通の顔出来るか自信ない。

「平常心。取り戻してください?」

頑張ります…

「ふふっ…そう言えば。」


おもむろにかおるさんが自分の胸に手を入れた。
何か取り出す。


「これも明日ちゃんと持っときますね」


オレの描いた似顔絵の荷札。


「お守り」


その荷札を見て柔らかい笑顔を浮かべた。
本能を封じ込めたはずなのに。
そんな隙だらけの笑顔見せられたらまた襲うぞ。
オオカミは緩急つけますよ?
とりあえず。
この可愛い愛しい人を抱きしめておこう。


「星野さんっ!ギブギブ!ロープっ!」

あ。ごめん。力入りすぎちゃった。
かおるさん可愛いんだもん。

「窒息するかと思いました…」

ふははっ。

「ふふっ」

紐はこれがいいな。


黒地に少しだけキラキラしてるのを選んだ。


「星野さんセンスありますよ?」

あとは…これ。


帯揚と呼ばれる布は濃いグレーに。
ベットの上に選んだ物をかおるさんが配置していく。


「こんな感じでいいですか?」

ん。いい感じ。

「明日をお楽しみに。」

今着て見せてくんないの?

「星野さんの前で雪女武装を解くわけにはいかないので。…今日は。」

ちぇー。

「楽しみは…後回しにすればするほど楽しめます」

いちいち言うことがエロいね。
かおるさん。

「星野さんのせいですからね?」

そうなの?

「そうなの!」


ちょっとだけバツの悪そうな顔をしたかおるさんが立ち上がった。


「さて。コーディネートも完成した事だし。
星野さん。帰りますか。」

えー。やだー。

「何言ってるんですか。」

ちぇー。

「明日は本番ですね…」

よろしくお願いします。

「はい。1人運動会頑張ります。」

ゴールテープは用意しとくから。

「ふふっお願いしますね」


オレはダウンジャケットを羽織り、リュックを持ってマスクを付けた。
玄関まで見送ってくれるかおるさん。


今夜はちゃんと寝れますか?


衣装合わせの日を思い出した。
寝不足で顔色の悪かったかおるさん。


「寝ます。なんとしても。明日は大事な日ですから」


靴を履いて。振り返る。
彼女の顔が思ってた以上に近くにあって。
心臓が飛び跳ねた。マスクをずらす。そのまま壁にかおるさんを押し付けた。


も1回してい?


返事をされる前に唇を重ねる。
かおるさんの柔らかい唇がうっすら開く。
あ。雪女の微笑み。
重なる直前に見えた。彼女の余裕。
そこに何もかも持っていかれそうになる。
どっちが襲われてんのかわかんなくなる。
そしてそれがどうでもよくなる。
この人とするキスは気持ちよすぎる。
唇を離した瞬間に。彼女の唇がもう一度ふわっと重なる。
なにそれ。ずるい。


かおるさん。
今のはやばい。

「今の?」

気づいてないの??


何のこと?ってキョトンとした顔を浮かべる。
もー。大変です。
帰ろう…一瞬でも離してくれようとしてるんだから。
大人しく帰ろう。
…絶対その余裕を奪い取ってやるーっ!
と心の中でメラメラとドSくんが闘志を燃やす中、オレは玄関を出た。


「おやすみなさい。気をつけて。」

ありがとう。また明日。

「また。明日。」


エレベーターに入るまでちゃんと見送ってくれた。
寒い。寒いんだけど、心と下半身が熱い。
リベンジマッチ。しなくては。
そう心に誓ってタクシーに乗り込んだ。

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