妄想劇場 20

(こちらは完全に妄想の物語です。
実在の人物や関係者とは全く関わりありません。)





紅白歌合戦未公開リハーサル the other side





昨日のラジオ。
楽しかったー!!久しぶりにカラオケパーティをラジオブースでやってゲストと盛り上がって。
あまりカラオケなんて行くことないけどこんな感じでワイワイ盛り上がるのは好きだ。
リスナーさんたちのメールを読んだりいつものコーナーをゲストも巻き込んでやったり。
束の間の心から楽しめる時間。仕事だけど。
クリスマスだからってクリスマスソング歌ってみたり。オレのレパートリーにはなかったから新鮮で。
次はこーゆーテーマもんもいいかもって思ったりもした。

深夜の1時から3時まで。
普段いつも起きてる時間だから苦にはならない。
昨日みたいなスペシャルバージョンも通常放送も。
疲れたしんどいって思ってる時はリスナーさんに元気になれるようなメールをお願いすればじゃんじゃんくる。そんな楽しいメールを読んで大笑いして疲れなんて吹っ飛ぶのを肌で感じる。

あのイブの夜かおるさんと話をしてから連絡を取ってない。
なんだかんだ忙しいのと、お互いいい年してるし(そういや何歳なんだろう)別に恋人になった訳でもないから…とスマホを持つ手を必死で止めた。
そんな報告LINE貰ってもかおるさんはたぶん返事しないだろうな…って気持ちも少なからずある。
今何してる?何考えてる?って聞きたい気持ちは山々山々なのに。

今日26日は昼から紅白の未公開リハーサル。
明日は公開リハーサル。30日は前夜祭の番組に出て、31日が本番だ。

かおるさんとの待ち合わせ時間が12時ってこともあって石田くんのお迎えは11時30分。
ちょっと寝坊しよ。


「星野さん。困りました。」

どしたの?

「本番当日の着付け師の手配が出来ないんです。」

え。それまずくない?

「この時期は無理だと方々断られてしまって…」

かおるさん怒るだろうな…

「まずいですよね…」


迎えに来た石田くんの顔が暗いからどうしたのかと思ってたらこんな事態。
着付けってされたことしかないから大変さが分からないけど…この前の衣装合わせの時の手際の良さを見てたら大丈夫なような気もする。


素直に謝るしかないね。

「謝って済むならいいんですけど」

オレも一緒に謝ろうか?

「僕の責任なんで。先に僕から話をします。」

うん。わかった。


目的地はもうすぐそこだ。
あ。かおるさんじゃない?あれ。
クリーム色のコートの下から暖かいオレンジ色の裾が見える。足元も草履だし。


石田くん、駐車場入ったとこで降ろして?

「はい?」

ほら、あそこ歩いてんの。かおるさん。

「あ。ほんとですね。わかりました。」


NHKホールの関係者駐車場に入ったところでオレだけ車から降りた。


かおるさん!


歩いてるかおるさんに呼びかける。
キョロキョロしてる。
こっちこっちと手を振ってみた。


おはようございます!


あ。走らせちゃった。
着物がはだける!


「おはようございます。すみません。遅れてしまって。」

遅れてないですよ!むしろ早い!ちょうど車の中から姿が見えたので駐車場に入る前に降ろしてもらったんです

「なるほどね。」

今日はよろしくお願いします。

「こちらこそ。よろしくお願いします。」

行きましょう。こっちです。


かおるさんの前を歩いて案内する。
関係者入口で石田くんと落ち合った。


「おはようございます。」

「おはようございます。よろしくお願いします。」


本番まで1週間切ってるし、今日は出演者がほぼリハーサルに来るってこともあって…すごいことになっている。毎年の事だし驚きもしないがいつも大変な事だと思う。大道具さんたちが走り回っている。
後ろを来てるはずのかおるさんがほんとに付いてきてるかチラチラ確認しながら知り合いのスタッフさんに会ったら挨拶をしてとりあえず控え室へと進む。


オレトイレ行ってくんね


石田くんが爆弾を落とす時間を作ろうと思いトイレに向かった。

用を済ましたけどまだ時間かかるよね…
そう思い、スマホを取り出して音楽でも聞こうとリュックから耳うどん(イヤホン)を出す。

何聴こう…シャッフルでいっか。


「星野さん!」

あ。寺ちゃんお疲れさま!

「後で控え室に行きますね。」

はいはーい。


ラジオで一緒に仕事する寺ちゃん。
プライベートでも仲の良い友人の1人だ。
お互いがお互いの良き理解者。

また後でね~って手を振った。
そろそろいいかなぁ…

恐る恐る控え室505のドアを開けて中に入る。


お待たせしましたー


やべ。かおるさんが超絶不機嫌そうな顔してる。
石田くんは青ざめてるし…


あれ?深刻な話??

「星野さん。オムライス。奢ってくださいね。」

へ?


なんでここでオムライス??
いったいどーゆー話になったの???


「リハーサルは何時からなんですか?」

「ちょっと確認してきますね」


石田くんが控え室の外へ出ていく。


かおるさん…大丈夫?

「え?んー。たぶん大丈夫です。」

実はオレも今日聞いたんです。その話。

「まぁ仕方ないですよね。
手配出来なかった事に怒りをぶつけるよりは、段取り八分をやりきることにエネルギーをぶつけることにします。」


彼女のこーゆー所が好きだ。
その場の状況に合わす柔軟さ、的確に物事を捉えてその先を想定することが出来る能力。


怒ってる?

「怒ってる。」

顔が。

「出てるでしょうね。」

正直ですね。好きです。

「誤魔化されません。」

誤魔化してないです。

「んもー。星野さんと話してると。ペース狂いますね!」

んはは。

「はらわた煮えたぎってるのに。なんか上から甘いものタラタラかけられて溶かされるみたいです。」

もっと溶かしたいんですけどね

「雪女はそんな簡単に溶けませんよーだ。」


べーだって顔をしていつものできる女より少しくだけたかおるさんが垣間見えた。


かわいすぎるんですけど。


控え室じゃなかったら抱きしめてるところなのに!


「失礼します。星野さんのリハーサル時間ですが、2時くらいになりそうだそうです。」


石田くんが入ってきた。
オレのニマニマ顔には目もくれない。


石田くん。かおるさんやっぱり怒ってるって

「すみません…」

「大丈夫です。なんとかしますから。」

石田くんもかおるさんに頭上がんなくなっちゃったね

「どーゆー意味ですかね。」

やばい。オレも怒られる


3人で笑った。
かおるさんと石田くんの間にあった緊張感が少し和らぐ。


「星野さん。申し訳ないんですが、石田さんを少し貸して貰ってもいいですか?」

石田くんを?

「紅白当日もこちらの控え室は同じですか?
バンドメンバーさん達の控え室はどこでしょうか。
出来ることはやっておきたいので、今からでも商品部から衣装を持ってきておきたいんです。」

「控え室はちょっと点在してたように思います。
確認してきます。」

「お願いします。
星野さん、ちょっと電話してきてもいいですか?」

ここでかけますか?外は騒がしいから。

「じゃちょっと失礼して。」


かおるさんはカバンからスマホを取り出し電話をかけ始めた。電話してるとこ見たことないから見てよっとソファからちょっと身を乗り出す。


「お疲れ様。由美ちゃん。かおるです。」

「ごめんね?忙しいとこ。
ちょっと確認したいんだけど、紅白とCDTVの衣装ってそのままよね?」

「大掃除、何時に終わりそう?」

「わかった。ありがとう。ごめんね?手伝えなくて。」

「マジかー。」

「よろしく言っといて?」


相手は誰なんだろう。由美ちゃんって言ってたな。
仕事仲間とは言え、かおるさんがこんな話し方をするのを初めて聞いた。
ちょっと羨ましいなぁ。由美ちゃん。


いいなぁ。なんか。かおるさんとそんな風に話が出来て。

「話し方?」

なんだろう。くだけてる感じ?

「後輩の子なんですよ。一番頼りにしてます。
この前も一緒に来てたでしょ?」

あ!あの事務服の!

「そうです。あの子。」

ちょっと羨ましいです。

「なんでですか?」

かおるさんとフランクに喋れるのが。

「そこ?」

おかしいですか?

「おかしいですよ。ふふっ。
星野さんかわいいですね。」


かわいいだって。最近よく言われるその言葉。
オレは犬でも猫でもないんだけどねぇ…


そのですますをどうやったらとっぱらえるんだろうなぁ

「そうですね…
一緒に過ごす時間じゃないかしら。」

まだまだ…かかりますか?

「さぁ…ね?」


お互いの顔を見てふっと笑った。


「星野さんは…不思議な人ですね。」

そうですか?

「そうですよ。
不思議だから。惹かれるんでしょうね。」

そんなに魅力的?

「自分で言いますか。」

ふはは


ガチャ。


「お待たせしました」


石田くん…外で会話聞いてたの?ってくらいいいタイミングで入ってくるね。
邪魔しないで欲しいなぁ…なんて内心思ってみたり。


石田くん。おかえりー。

「はい。控え室ですが、やっぱり点在してました。」

石田くんは控え室の見取り図のコピーをガサガサと出して広げた。

「今いるのがここ。長岡さんがここ。伊賀さんがこちら。」

「ちょっと待ってください。
1人一部屋なんですか?」

「広さが違いますが、それぞれです。」

「今から準備することは可能ですか?
それぞれの控え室。」

「…それはなんとも…」

「では。この控え室は当日までもこのまま星野さんだけですか?」

「ここは。はい。」

「星野さん。ちょっと狭くなってもいいですか?」

ボクはかまいません。

「では。リハーサルが終わったらこの控え室に全ての衣装を入れさせてください。
そこから仕分けしてすぐ出せるようにしましょう。
メンバーさんたちが来られしだいすぐ着付けに入れるようにしておきます。
星野さんが基本的に最後になりますよね?
ヘアメイクもされるんでしょ?」

そうですね

「ではそれで進めていいですか?
今わたしの会社では大掃除が行われてるのですぐは難しいので。
5時以降には入れるはずです。」

「わかりました」

オレも手伝うよ。あのダンボールたくさん運ぶんでしょ?人手が多い方がいい。

「大丈夫ですか?」

一応男の子ですからね

「メガネマスクのセットは忘れないでくださいね?」

はーい


彼女の職場を見るなんて。
今まで付き合ってきた彼女ではなかった事だ。
こんな事めったにない。


コンコン


「星野さん、お疲れさまです」

寺ちゃん。お疲れさまー。

「もうすぐリハーサルの順番ですよ。」

はーい

「僕はほかのメンバーが来てるか回ってきますね」

石田くんが席を立つ。


寺ちゃん。こちら。かおるさん

「はじめまして。」

「寺坂と申します」


寺ちゃんがおもむろに名刺を出してる。
え。あなたそんなこと出来んの?
かおるさんが条件反射的に名刺を返している。
「立派な」社会人が目の前にいる。


「おびなたかおる、さんですか?」

「すごい!読めましたね!」


なぬ!寺ちゃんそれ読めんの??
初めてかおるさんの名刺を貰った時に下の名前しかわからなかった。
それ以来ずっと「かおるさん」
苗字をなんて読むのか聞くことすら忘れてた。


おびなたって読むんだ!

「星野さん…読めなかったんですね?
聞けば教えるのに。」


「大日方薫」
読めるわけないでしょ?オレの学問は小学校卒業で止まってんのよ。


「さすが放送作家さんですね。」

「恐れ入ります。」

亮ちゃんだって読めてないと思う。


ちょっと負け惜しみを言ってみる。


「いいんですよ。
もう慣れてますから。」

「星野さん。そろそろお願いします。」

石田くんが呼びに来た。
後には噂の亮ちゃん。


「あ。かおるさんがいる。源ちゃん。ずるーい」

「おはようございます。長岡さん。」

「かおるさん今日も美しいね」

「ありがとうございます。」

はいはい。亮ちゃん行きましょー


今にも口説き始めようかとする勢いの亮ちゃんを遮って控え室が押し出す。
オレも心がまだまだ狭いね。信用してる亮ちゃんでもなんかかおるさんを取られてしまいそうで。
しかも大人の魅力ムンムンな亮ちゃんなんだもん。
オレが100人いても敵わないかもしれない。


「ちょっと源ちゃん。」

なぁによ、亮ちゃん。

「取らないから」


ニヤリと笑う長岡亮介。
見透かされてるのがわかって恥ずかしい。


舞台袖では亮ちゃん以外のメンバーも集まってた。
みんなそれぞれに談笑したり、スタッフさんと話をしている。
控え室に置いてきたかおるさん。
どうしてんだろ。


「ホシノゲンさん入られまーす」


スタッフに呼ばれた。


よろしくお願いしまーす


さぁ。お仕事しますかーっ。
衣装合わせ日からそんなに時間は経ってないけど、今日はスタジオではない。本番さながらのNHKホール。
音も違うし空気も違う。

バンドメンバーもぞろぞろ入って配置につく。
それぞれが楽器を少し鳴らしたりして調子を見る。
オレもマリンバの前にたつ。
今日は客席には人はいない。
ちょうど真ん中らへんに音響と総監督が座ってこっちを見ている。

右手側に、舞台から少し離れた客席には寺ちゃんとかおるさんが並んでこっちを見ていた。
小さく手を振ると嬉しそうに振り返してきた…作家寺坂。
お前じゃねぇっ!と心の中で突っ込んだ。

簡単に音合わせをし、カウントをドラムの大地くんが取り、曲が始まる。
マリンバの音がホールに響き渡るのが気持ちいい。
どうせなら全編マリンバにすればよかった。
チラチラと歌いながら寺ちゃんとかおるさんの方を見る。かおるさんの頬にキラッと流れ星が落ちた。
それが涙なのはわかる。けど、それをじっと見つめてるわけにも行かないので目線をあちこち向けていく。
カメラクルーの動作確認もされてるから。あまり一方向ばかり向いてるとNGを出されかねない。

次にチラっと見た時にはかおるさんはいつもの顔に。
今度は寺ちゃんがボロボロ涙を零していた。

曲が終わり、スタッフからも拍手が起こる。
ありがとうって言いながらバンドメンバーともアイコンタクト。

よし、終わったかなーと思ってまたあの方向を見た時にはもう2人はいなかった。
あれ。どこいったんだろ。


「源ちゃーん。戻るよー」


亮ちゃんに呼ばれる。


お疲れさまでした。ありがとうございました。


とスタッフさんに挨拶をしてから舞台袖にまたはいった。
控え室に戻る道中。亮ちゃんが耳打ちしてきた。


「源ちゃん。かおるさんの方見すぎよ?」


見上げるとまたニマニマ顔の長岡亮介。


どこ見てんのよー

「わかりやすすぎてね」


控え室に戻る道中でかおるさんがどこかで迷子になってないかとまたキョロキョロしたけどその心配は無用だった。
途中寺ちゃんが「無事送り届けました」ってご丁寧に言ってきたから。

控え室のドアを開ける。


かおるさん!ここにいたんですか!

「星野さん。お疲れさまでした。」

寺ちゃんと見てましたね!

「はい。一緒に見ますかって言ってくださったので。」

かおるさんに手振ったのに。寺ちゃんが振り返して来たんでビックリしました

「あれわたしに向けてだったんですか?」

ふははっ当然でしょ?なんでヤローにおててフリフリするんですか

「おててフリフリって」


かおるさんの顔が和らぐ。


「素敵でした。ホシノゲンさん。」

今ここにいるボクもさっき歌ってたのも。同じですよ?

「わかってますよ?でもやっぱりちょっと違うんです。」

ボクが仕事してる時のかおるさんと、一昨日の夜のようなかおるさんどっちも好きだってのと同じ感じ?

「当たらずとも遠からず…ですね。
わたしは表舞台のホシノゲンさんをほとんど知らないので…」

どっちのホシノゲンを知りたいですか?

「え?」

表舞台に立つオレ。裏側のオレ。


聞いてみたかった。
オレは今も星野源だし、舞台の上でだって星野源なんだ。芸能活動の今までの歴史なら調べればいくらでも出てくる。
そこに出てこない裏側のオレ。
かおるさんはあたかも2人の星野源が存在するかのように話をする。ならばどっちを知りたいんだ。どっちをあなたは選ぶの?


「わたしは…わたしの知ってる星野さんのことを知りたいです…」

よかった。

「え?」

表舞台のホシノゲンって言われたらどうしようかと思った。

「どうしようって…わたしほんとに知らないんですよ?
紅白の仕事の手伝いもするのに。
失礼極まりないでしょ。」

そんなのどうでもいいですよ。嫌でも知るようになるだろうし。
それよりも。かおるさんにはちゃんと知ってもらいたいなぁと思ってます。今のボクを。

「今の星野さん?」

そう。今までの事は別に知っても知らなくてもいいんです。ただボクは前を向いて進みたいから。かおるさんには今とこれからの星野源を知ってもらいたい。


そりゃ確かに。今までのことがあるから今のオレがある。でも過去を掘り起こしたからと言って今のオレは出てこない。
大事なのは今までじゃない。これからでしょ?
そこにどんな顛末が待ちかまえようと。


「…」

ちょっとカッコつけすぎましたね。

「ふふっ。」

ふはは

「ほんとに心臓に悪い人ですね。」

そんなことないです。ボクからしてみればかおるさんも心臓に悪いんだから。さっき見てた時泣いてたでしょ。
きらって光ったんです。ドキドキした。

「なんで見てるんですか…」

見るでしょー

「でも今日見れてよかったです。
演奏も歌もみなさんも素敵でした。本番はわたしは見れないから。」

終わった後ね、亮ちゃんにからかわれました。
かおるさんの方見すぎよ?って

「長岡さん…目ざといですね。」

あの人はごまかせない!


コンコン

石田くんが入ってきた。


「星野さんお疲れさまでした。リハーサルバッチリでしたね」

うん。ありがとう

「今日はもう帰って大丈夫そうです。」

じゃかおるさん。行きますかー

「この後で衣装の搬入はしても大丈夫なんですか?」

「搬入だけなら大丈夫だと。」

「わかりました。
では行きましょう。」


初めての潜入捜査だ。

0コメント

  • 1000 / 1000

日々の嫉み