妄想劇場 46

(こちらは完全に妄想の物語です。
実在の人物や関係者とは全く関わりありません。)







元旦 1








やっと。手に入れた雪女。
身も心も全部オレのもの。
全くもってそんなことしてる場合じゃないのに。
エレベーターが地上階に到着する。
石田くんの車が目の前に止まってオレを待ってる。


おはよー!石田くん。

「…おはようございます。ご機嫌ですねぇ」

そ?

「髪濡れてますよ。風邪なんか引かないでください?」

ほんとだ。


タオルドライしかしてないから。
外の空気に触れて髪が冷たくなってる。
さっきまで雪女の熱に溺れてたからさ。
外の気温なんて考えてなかった。


「昨日はあれからすぐ帰ったんですか?」

割とすぐだったよ。

「かおるさんは…?」



言うべき?黙っとくべき?
でもいずれバレる事だもんな。


酔っ払って寝ちゃったから。
うちに泊めた。

「は?」

石田くん帰ってすぐくらいにバーで酔いつぶれて寝ちゃったのよ。あの人。
でも誰もかおるさんの家なんて知らないからさ。
オレ送るわって言ってさ。
そのまま連れて帰った。

「てことは…まだ?」

ん。部屋にいるよ。

「星野さーん…」

いいの。オレの彼女だから。

「いつから?」

ん?さっき…から?ふははっ。

「気をつけてくださいね?くれぐれも。かおるさんは一般人なんですから…」

わかってる。

「油断も隙もないですねぇ」

なぁによ。それ。

「反対はしませんけどね。かおるさんなら。」

ありがと。

「そう言えば。CDTVの中継見ながらかおるさん泣いてました。」

え?

「なんて言ってたかな…確か…かおるさんの存在は呉服の歴史には名前すら残らないけど、星野さんは音楽の歴史に名前を刻む人だーとか。言ってましたね。
そんなすごい人なのにいろいろ普通でって笑ってましたけど」

オレがいる時は涙見せないのにね…

「星野さん個人に直接原因がないからじゃないですか?」

どゆこと?

「個人の星野さんと芸能人の星野さんの間にまだギャップがあるんでしょうね。個人の星野さんはいろいろ普通なのに、同じ星野源でも芸能人の方はすごく大きいところで活躍してますからね」

んー。なるほどねー。
石田くんカウンセラー出来そうね。

「転職考えますかねぇ」

ダメっしょ。んはは。

「個人の星野さんがかおるさん泣かせちゃダメですよ?」

気をつけます。ありがと。


車が都内の中心に向けて走っていく。
今日から公開初日舞台挨拶。
どうせ全国一斉上映ならライブビューイングとかにしてくれればオレが全国回ることもないのになぁ。
それでもね。
映画を楽しみにしてくれてる人達。
オレのファンになってくれた人達。
たくさん待ってくれてる人達に会いに行かなきゃ。
今一番一緒にいたい人を残して。

あ。墓穴掘った。
彼女になったばかりの人を部屋に残して(ほぼ放置)出てきてしまった。
かおるさんからしてみればそこが東京のどこなのかすら検討もつかないだろう。
大丈夫かな。彼女の部屋のあるところからは結構遠い。まぁお互い子供じゃない。
予想外の展開にはなっちゃったけど…

黒いテロテロの生地がはだけて脚が見えた時点でアウトよね。
朝日の中で見る雪女は何ものにも変え難いほど綺麗で。コーヒー作りに行こうと思ってベッドを出てそこから目を逸らそうとしたのにさ。
ダメだった。
たすき掛けまでして朝ごはんしてくれようとしたのに。


腹減ったー。

「食べてないんですか?」

起きたのギリだったの。

「どっか寄りましょうか。」

ごめん。コンビニ寄ってもらえる?

「はーい。」


オレは何人目の猟師なんだろう。
彼女の罠にかかったのはオレだけじゃないはず。
顔のわからない過去の男が気にならない訳では無い。
でもそんなこと言ってたらオレの過去だっていろいろあったから。
掘り返す必要のないものはそっとしておくべきなんだ。

車窓から新年1日目の景色が流れていく。
至る所に日の丸が上がってる。


そーいや元旦だったね。今日。

「そうですよ?」

なんか…いろいろありすぎて日にちの感覚無くなるね。

「いろいろあったのは星野さんだけでしょ?」

ふははっ。そうかも。


初詣に行くんであろう着物姿が目に付く。
いいな。オレもあれやりたい。
ふと思いついた。
かおるさんにLINEしてみよ。


「まだ部屋にいる?」

「いますよ。電話の充電が無くなってたので。
勝手に充電させてもらってます。」

「どーぞどーぞ。」

「お仕事は?」

「今向かってる。」

「どうしました?」

「初詣さ。オレも着物着たい。」

「持ってるんですか?」

「ない。紅白の時のそのまま買い取ろうかなと思って。」

「なるほど。」

「着物買ったことないんだけどいくらくらいすんの?」

「高いですよ?」

「怖っ(笑)」

「お安くさせていただきますね。」

「お願いします」


石田くん…

「はい?」

着物っていくらくらいすんだろ。

「は?」

紅白の衣装さ。買い取ろうかと思ってんの。

「あー。よく似合ってましたもんね。」

そう?

「かおるさんコーディネートでしょ?」

そうそう。

「星野さん。顔がニヤけてます。」

ふははっ。

「いくらくらい何でしょうね。想像もつきません。」

だよねぇ…

「コンビニ。買ってきますよ?」

あ。じゃツナマヨー。

「そればっかりですね」

好きだもん。

「わかりました」


石田くんが車を路肩に止めてコンビニに行ってくれる。自分で行ってもいいんだけどね。
髪がまた冷たくなるのは嫌だから正直石田くんが提案してきてくれた時はありがたかった。
マスクしてるし。多分バレることはない。
マスクってすごいの。口元隠すだけで誰もオレって気づかない(たまにバレるけども)。
発明した人は天才じゃないかと思うほど。


「戻りました。冷えますね。」

ありがとう。


石田くんがツナマヨおにぎりと暖かいお茶を渡してくれた。
ペリペリめくって頬張る。
ツナマヨは裏切らない。
いつ食べても同じ味。


「もうすぐ会場です。」

ふぁーい。

0コメント

  • 1000 / 1000

日々の嫉み