妄想劇場 35

(こちらは完全に妄想の物語です。
実在の人物や関係者とは全く関わりありません。)





紅白当日 9





なんとか間に合った。
星野さんの着付けにたどり着けるか。わたしの心臓が爆発するかのどっちか!大げさっ!と突っ込みながら学生以来した事の無い階段ダッシュ。
運動会の最後はリレーで華々しく終わるように。
見事なゴールを。一等賞を貰った。

着物で階段ダッシュは初めてやったわ!

星野さんが出ていったあとの控え室で大きな独り言を放つ。
控え室のテレビは今現在の紅白の様子が映し出されている。朝ドラのミニドラマ的な何かかな?
可愛らしい女優さんが何か喋ってる。
星野さんの出番はもうすぐ。ソファに座ってとりあえず見れるだけ見ておこう。

と思って。ソファに座りました。
とりあえず半分終わったって安堵感が勝ちまして。
目を瞑った瞬間世界が終わりました。
暖かいものがわたしの手に触れたことでうっすら覚醒。
星野さんの出番は…あれ?なんで目の前で心配そうな顔をしてるんだ。なんでわたしの絆創膏だらけの指を見てるんだ。


「あ。起きた?」

あれ?星野さん。なんで?本番は?

「終わったよ?無事。」

え?もう?

「この指。どしたの?」

え?これは。衿を付け替えてた時に針で刺しちゃって。

「痛そう…」

もう大丈夫ですよ?念の為に取らなかっただけなんで…

「何も教えてくれないから。」

ふふっ気に止めることでもないでしょ?
てか。本番終わったんなら着付けに行かなきゃ!
星野さん。脱いでください!

「え?」

星野さんはこのままエンディングは洋服ですよね?
早く。着物は脱いでください。

「はーい。」

片付けは後でやりますので。そのまま置いといて下さいね?


どんな顔して寝てしまってたんだろう。
それも気になるけど、とりあえず今は早く着付けに行かなきゃ。
とりあえず1番近いところから。
長岡さん!


失礼します!
お疲れさまでした。

「かおるさん!どうだった?」

とりあえず脱いで下さいね?
ごめんなさい…半分終わってほっとしちゃって。
本番見れてないんです…

「えー?そうなの?」

すみません…

「かおるさん面白いねぇ」

なんか皆さんにそれ言われるんですけど。
何が面白いのかさっぱりわかりません。

「そーゆーとこです。」

え?

「そーゆー。クソ真面目なとこ?」

面白いんですか?

「面白いとゆーか。可愛い。」

はぁ。


長岡さんを紋付袴姿に変身させていく。
わたしの何が面白くて可愛いのかわたしには分からないけど。そう言って貰えるのは嬉しい。
赤い衿を最後に整える。


「これねー。エロいよねぇ」

色っぽいですよね。
はい。出来ました。
わたしも次の会場に行くことになってますので、もし着崩れたら直しますからね。

「ありがとう。」


長岡さんが紅白で着た衣装をまた風呂敷に戻し、次の伊賀さんの控え室に向かう。
長岡さんと伊賀さんは同じフロアだからまだいい。
4階の伊藤さんと櫻田さんはとりあえず1箇所にまとめよう。3階の3人も同様。
最後に全部回収して台車に乗せてしまえば。
エンディングやってる間に石田さんの車に乗せれるはずだ。


伊賀さん。お疲れさまです。
失礼します。


順調に伊賀さんの着付けも終わり、2つの風呂敷を星野さんの控え室のドアそばに置いておく。
次は下の階。順調に伊藤さんと櫻田さんも終わり、非常階段そばに風呂敷を2つ重ねる。
その下の階は3人。
伊能さんは大丈夫かしら。

コンコン。


失礼します。伊能さんお疲れさまです。
体調は大丈夫ですか?

「おかげ様で。大丈夫です。」

よかった。では着付けしますので、今着てらっしゃるのを脱いでくださいね。

「はい。」

本番無事終わってよかったですねぇ。

「かおるさんが順番変えてくれたおかげです。」

とんでもないです。


サクサクと着付けを進める。


もし次の会場でしんどくなったら言ってください。
きつくは締めてないけど着慣れないものだと思うので。出来ることはしますね。

「ほんとにありがとうございます。」

では。


伊能さんの控え室を出て次はミオさんアヤネさんの着付けに向かう。
風呂敷全部抱えて非常階段は無理だし、あと2人終わればひと段落はつく。
星野さんを着せるのは次の会場だし。
エレベーターを使えば早い。
女性の方の着付けは襦袢そのままで紋付を着せ直すだけだから男性のより早く終わった。
手早く紅白の衣装を風呂敷に戻し、さっきの伊能さんのをまた持ち上げてエレベーターに向かう。
4階のはとりあえず後で。
エレベーターが5階に到着した。
星野さんの控え室に向かう。
重たい。風呂敷3つは重たい!


「あー。また重たそうなの持ってる。ほら。かして?」

え?


またもやひょいと後から片手で持ってた風呂敷2つを取られた。急に片側が軽くなってバランスを崩す。
腕を掴まれた。


「ちょっとちょっと。倒れないでよ?」

すみません!

「今度はどこ持ってくの?」


運動会前に手伝ってくれたジャニーズさんがそこにいた。
さっきと衣装が違う。


あ。星野さんの控え室に。

「わかったー。」


先にスタスタと歩いて行くジャニーズさん。
星野さんの控え室に躊躇することなく入っていく。


「源くーん。オビナタさん連れて帰ってきたよー。」

「潤くん。え?なんで?」

「まぁった重たそうなの運んでたから。」

「紳士だねぇ」

「ほら。受け取って?重てぇ。」

ありがとうございました。
助かりました。


深々とお辞儀をした。


「もう。ない?」

はい。いや、もう1人で大丈夫です。

「源くん。行ったげなよ?」

「ん。ありがとう。潤くん。」


目の前の展開に目がチカチカします。
天下のジャニーズの松本潤さん(星野さんが潤くんって呼んだ時に思い出した。)と。飛ぶ鳥を落とす勢い(らしい)星野源さんに挟まれた…一般ピーポーオビナタカオル。ファンなら。気絶もんよね?
特別ファンじゃなくてすみません…


「じゃーまた後でねー。」


松本さんがヒラヒラ手を振って去っていく。
星野さんがわたしの腕を取る。


「どこ?」

え?よ、4階の非常階段前に…

「行くよ。」


非常階段の方に腕を引っ張られながら連れていかれる。


ちょっと。星野さん!痛いです。


非常階段に続く扉を乱暴に開けて。
するりと入り込んでドアが閉まる。


「ごめん。痛かったね。」

なんで?そんな怒ってるんですか?

「怒ってんじゃないの。」


わたしを非常階段の壁に押し付ける。
背中に壁がひんやりして気持ちいい。


「ただのヤキモチ。そこに何もないってわかってるけど。わかってるんだけど、なんかコントロール効かないのが腹立たしくて。かおるさんが大変な思いしてるのにオレ全然気づけてないし。」


星野さんの頭がわたしの肩に乗っかかる。
仕方ない人だなぁ…とんでもなく。愛おしい。
背中を少し撫でる。
星野さんがちょっと顔をあげてわたしの方を向いた。
手を握られる。優しくあったかい大きな手。


好きですよ。星野さん。

「…ほんとに?」

ほんとに。

「ん。ありがとう」

さ。ほら。風呂敷最後取りに行きますよ?

「はい。」


手を繋いだまま階段を降りる。
そんなにゆっくりはしてられない。
急いで4階の風呂敷を2人で持ち、また階段を上がる。


「星野さん!どこ行ってたんですか!」

ごめんなさい!石田さん!
風呂敷が重たくて、星野さん手伝ってくれたんです。

「…なるほど。もうすぐエンディングなのにいないから。」

「ごめん。石田くん。」

「いいです。まだ間に合いますから。」

石田さん、車の鍵貸してください。エンディングの間に荷物入れます。

「僕も一緒にやりますよ。」

ありがとうございます。

「星野さん。お願いします」


スタッフが呼びに来た。


「はーい。じゃ石田くん。お願いね?」

「わかりました。」


星野さんがスタッフと共に控え室を出ていく。


「かおるさんが頼んだんじゃないでしょ。」

え?

「風呂敷。」

あー。どうだったかしら。

「かおるさん嘘が下手ですね。
まぁいいです。早く行きましょう。」

すみません。

「いいんですよ。ただたまに星野さん暴走しちゃうから。ちゃんと引き止めて下さいね」

石田さん…お母さんみたいですね。

「お母さん…ですか。」


風呂敷を8個。4つずつ(重たい方は石田さんが)持ってエレベーターに乗り込んだ。
地下の駐車場まで行きトランクに全て積み込む。


「CDTV終わりに会社に持っていくんですか?」

そうです。とりあえず警備室に預ければ大丈夫なので。

「なるほど。」

すみません。遠回りになりますよね。

「いえ。大丈夫ですよ。僕の手配ミスでかおるさんには迷惑をかけましたし。でもかおるさんはちゃんときっちり仕事してくれました。本当にありがとうございました。」

いえいえ。こちらこそ。
いい勉強と試練になりました。
星野さんに一等賞貰いましたよ?

「ははっ一等賞ですか」

はい。
嬉しかったです。

「かおるさん…星野さんとこの後何か約束してますか?」

え?してませんよ。

「え。してないんですか?」

どうゆうことですか?

「いや。何となく。てっきり。」


エレベーターに乗り込み5階の控え室に戻る。
控え室のテレビでは最後の大合唱が始まった。
1年が終わる。
あ。星野さんと松本さん。隣同士で仲良く歌っている。

なんだか…この1年は(特に後半)いろいろありすぎた…
星野さんとの出会い。それから再会。
仕事…。はまだあと少し残ってる。
紅白が終わったら。すぐに移動しなくてはならない。
最後の大合唱が終わった。
画面が切り替わりゆく年くる年が始まる。
厳かな除夜の鐘の音が静かに鳴り響く。

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