(こちらは完全に妄想の物語です。
実在の人物や関係者とは全く関わりありません。)
打ち合わせ the other side
久しぶりに清々しい目覚め。
昨日は夜更かしもせず帰ったらすぐシャワーしてすぐ寝た。
そして久しぶりに夢も見ることなくぐっすり寝た気がする。
カーテンから朝日が差し込む。眩しいなぁ…なんて呟きながら寒い部屋を温めるために暖房のスイッチを入れる。
コーヒーが飲みたい。
どうせ夕方近くに美味しいコーヒーを飲みに行くけど、やっぱり朝はコーヒーよねぇと何年か前に買ったコーヒーメーカーを引っ張り出す。
何回か使ったよ?インスタントの方が早いから普段はそっちだけどさ…芸能人やっててお金に困ってないのに。なんだかんだ普通なんだよ。多分普通の人からしたら何でそんなことにお金かけるの??って所に使うことはよくあるけど。(音楽機器とかさ…)
なんとなく今日はコーヒーメーカーの気分だったので…豆を探す…探す…ない。
捨てたかもね?
もーいーや。インスタントで。
コーヒーをとりあえず飲み、身支度を整えて部屋を出る。
石田くんが下で待ってる。
「おはようございます。」
おはようございます。
「今日はなんかさやわかですね」
今日は??(笑)
「オムライスだからですか?」
さぁねぇ…
言葉を濁す。いや。オムライスだからですよ?そうです。もう言い切っちゃいます。
怒られる可能性が高いけどね。
昨日の電話以上に。
石田くんの運転する車は滞りなく現場につき、仕事を始める。
今日は取材。アルバムのこと。映画のこと。私生活のことも聞かれる。当たり障りのないことを話す。今朝コーヒーメーカーで入れようと思ったら豆がなかったとか。
撮影も終わって。
全部終了したのが3時。思ってたより時間かかったなぁ。まぁいい。間に合う。なんならちょっと早く着くんだ。いいじゃないか。
「じゃまた迎えに来ますね。」
はーい。お願いしまーす。
「星野さん。信用してますからね?」
何回目よ(笑)
石田くんは心配性だ。
そんな信用ないかねぇ…
すっかりツタの葉っぱが落ちてツルしか残ってない喫茶店。これの中に飛び込むのか…眠れる森の美女を助けに行く王子みたいだな…小さい頃に見た映画を思い出した。あとから出てくる魔女が怖いのなんのって。
カランカラーん
「星野くん。いらっしゃい。」
マスター。こんにちは。
「今日は早いね?また急ぎ?」
いや、今日は待ち合わせです。
「かおるちゃんと?」
マスター。なんで知ってんの?
「あ。そうなんだ。」
当てずっぽう?
「そうだよ?」
意味深な笑を口元に浮かべるマスター。
この人には無理だ。通用しない。まぁ、一部始終を目撃してるんだもんな。
時計を見ると。
4時10分。
待ち合わせに遅れるような人じゃないと思ってたかおるさんがまだ来てない。
ここは彼女の会社からもそんなに遠くないはずだが…
とりあえずカウンターに座ってコーヒーを頼んだ。
今日はマスターのコーヒーの淹れ方を見よう。
「そんな見られると照れるんだけど」
可愛いじゃないか。マスター。
「はい。お待たせ。」
ありがとう。
ひと口飲む。やっぱり美味しいよなぁ…
何が違うんだろ。
あ。やばい。お腹がグルグル言い出した。
トイレ行っとこう。
荷物そのままでトイレに入る。
カランカラーん
店のドアが開いた鐘の音がした。
話す声がする。けど誰が喋ってるのかはくぐもってて聞き取れない。
用を終わらせて手を洗い外に出る。
あ!かおるさん!
「え。星野さん?」
見慣れない服装の彼女が座ってたのに立ち上がった。
いつも着物だから今日もきっとそうだろうと思ってたから…突然のことにマジマジと見てしまう。
すみません!トイレに行ってました
「こちらこそ。遅れて申し訳ないです。」
いやいや突然でしたからね…って今日は洋服なんですね
「あ。そうなんです。」
今日という日がどんな日だったのか早口で説明された。ロングTシャツにジーパン。スニーカーの出で立ちに納得した。キチっとした着物姿とラフな普段着とのギャップにやられそうなんですけど…
なるほど。大変だったんですね。そんな日にすみません
「いやいや。逆に打ち合わせなのにこんな格好で…」
着物姿も好きですけど、洋服もいいですね。
なんか新鮮。
「マスターにも同じこと言われました。
早速ですけど…仕事の話を。」
そうでしたね。
と言ってオレはリュックの中からノートを出した。
彼女も手帳を出す。
あ。星柄
「ん?あ。そうなんです。
昔から星柄が好きで…自然と集まってきます。」
じゃボクと出会うのも運命だったかもしれませんね。
何言ってんだろ。考えもなくサラッと出た。今どきドラマのセリフにもこんなわざとらしい言葉は出てこない。この一瞬の間が…耐えられない。
「…何言ってるんですか。からかわないでください。」
そう…ですよね(笑)
あれ。心無しか彼女の顔が赤い。
今のセリフが効いたの?
ちょっといじってやろうかと言うドSな自分を押さえつけて続きをする。
えーっとですね。まず年末は紅白歌合戦。それと明けてすぐのCDTVの新春番組なんです。お願いしたいの。
「は?2つ?」
そう。2つ。
ハテナが何個か彼女の顔に浮かんでくる。そりゃそうでしょ。昨日の電話ではここまでのこと言えなかったもん。ハテナを無視して続けますよ?
どっちもボクの最近のシングルカット曲を歌うんです。ほら、半年前まで朝ドラの主題歌だったんですけど…
「ごめんなさい。その時間はもう会社に…」
ふははっ早っ!
紅白の方はちょっとドラマ仕立てな感じで紹介されるみたいなんです。朝ドラの時代背景が割と最近なんですけど、古き良きなのも少し残ってる…って感じで。
ボク含めてバンドメンバー全員ちょっとオシャレな大正ロマンな感じにしたくて。それで着物はどうかって話になったんです。
「ちょ。っと待ってください。
星野さんだけじゃなくて、バンドメンバーの方々全員ですか?」
はい。
どんどん…どんどん顔が曇って行ってる。
さっきまでなかった眉間にシワがひとつ。
かおるさん?
「あ。またわたしの顔が物語ってますか?」
ふははは。はい。だいぶ曇ってきました。
「すみません…」
いえいえ。わかりやすくてボクは好きです。
あ。またやってしまった。
何サラッと言っちゃってんの?でもホントの事だし。
そう思ってるからさ。人間ウソはいけません。ウソは。
「それで…バンドメンバーは何人ですか?」
まずボク。ギターの亮ちゃん。ベースの伊賀さん、ドラムの大地くん、キーボードのさくちゃん。あとバイオリンのみおさんと修くんとチェロのアヤネちゃん。
「8人?男性4女性4?ですか?」
いや、男性6女性2ですね
「全員大正ロマン風に着物ですか?」
そこなんですよ。男性は全員着物がいいと思うんだけど、女性は着物にすると仰々しくなってしまうかもなぁと思って。
「大正ロマンもいろいろありますから。
とりあえず何点か見繕ってみます。写真でいいですか?」
大丈夫です。
紅白が終わってからがCDTVなんですけど、こっちは普通に歌うだけなんで、お正月らしく紋付袴っぽい感じにしようかなと思ってます。
「ちょっと待って!
着替えるんですか??」
はい。だからかおるさんには年末年始。ずっと一緒に回ってもらいます。
ふはははっ!へっ?って顔してる。ドSがチラチラ顔を覗かすのを必死で抑えてるけど。もう目の前の顔がどんどん表情が移り変わっていくのが面白すぎて。
紅白歌合戦終わりからCDTVは去年もやった。
車の中で年越しをする。
今年は…かおるさんと一緒に。
「着付けは…全員分必要ですよね?」
そうですね…時間があまり無いかもしれないので…着付け出来るスタッフは多分手配出来ると思います。
「それならわたしは必要無いのでは…」
いやいや、衣装の総責任者として。いて欲しいんです。かおるさんに。
「そんな役割あるんですか?」
ありますよ?普段はスタイリストさんだけど。今回はかおるさんです。
「右も左もわかりませんから…かえって邪魔になりますよ?」
大丈夫です。ボクが保証します。あと、ボクも付いてますから。
しばらく間。彼女の手帳をめくる音、書き込む仕草。
コーヒーをひと口飲む。
ちょっと考える時にくちびるがむーって突き出してるのが可愛い。
めっちゃ考えてますね?
「はい。いろいろと。やることたくさんだなと思って。」
もっと早く…連絡すればよかったですね…
「ほんとです。
夜中の4時だろうと電話してくれればよかったのに。」
出てくれました?
「…着信に気づいたら掛け直しますよ…」
その時じゃボクが寝てたりするだろうな
「芸能人って…大変ですね。」
そうですね…すみません。なんか巻き込んじゃって。
でも着物着る?って話になった時に絶対かおるさんにお願いしたい!と思ったんです。
「ありがとうございます。
あ。そう言えば。初めて電話してくださった時なんでわたしに掛けたんですか?」
…え?
今ここでそんなこと聞く??
青天の霹靂過ぎてびっくりした。
あれっていつだったっけ?もうだいぶ前よね?
何でそんなこと覚えてんの??
あの時は…えっと。あの…
お正月公開の映画のプロモーションとか、アルバムのプロモーションなんかが立て込んでしまって…休みもなくて。オムライスも食べに来れなくて。でもなんか無性に誰かの…かおるさんの。声が聞きたくなって。
かけました。
顔から火が出そうだ。なんかさっきまで今か今かと出番を待っていたドSくんの存在を知ってて放った爆弾のような質問。おかげでドSくんは撃沈。
でも…正直に答えたオレの目の前に座る彼女はみるみる赤く染あがっている。
かおるさん…顔が赤い
「え?わたしですか?誰と比べて??
星野さんも真っ赤ですよ?」
2人で笑った。
顔を赤らめて恥ずかしそうに笑う彼女はとても綺麗だった。
それからマスターにオムライスをお願いし、運ばれてくるあいだにもう少し打ち合わせをして。
ふわふわのタマゴが運ばれてきたら…
ふんわり揺れる湯気の向こうにかおるさんの優しい笑顔が見えた。
食べながらたまに目が合うと照れくさそうに目を細めるかおるさんが可愛すぎた。
今日のオムライスは絶品だ。
では3日以内にお願いします。
「わかりました。ラジオいってらっしゃい。」
はい。いってきます。
マスター。ごちそうさまでした。
マスターが手を振ってくれた。
重たいドアを開けて外に出る。
「ラジオいってらっしゃい」
かおるさんの優しい声が頭の中でこだましている。
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃい」
反芻しまくる…変態か。
やばい。今までは「それじゃ、また」とか割と味気ない感じだったから。
ただの「いってらっしゃい」の破壊力がスゴすぎる。
甘い…あまーいっ!!!!
知り合ってからはなんだかんだ半年も経っているのに実際会ったのは今日で4回目。それなのに。
4回会うのにかかった日数が嘘のようにない感覚になる。まるで4回毎日連続で会ったかのような。
彼女が知ってか知らずか…オレの心をだいぶと揺り動かしている。
日々の嫉み
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