(こちらは完全に妄想の物語です。
実在の人物や関係者とは全く関わりありません。)
仕事 the other side
目まぐるしい…。
吐きそうなほど目まぐるしい。
もー11月も中頃。
アルバムは無事完成。発売後も滑り出し快調。
前作を必ず上回るだろうとはやし立てられている。
音楽番組も何局も出た。最近の歌番組って生放送多いよね…。収録して全部いっきに終わらせてくれたらいーのに。
それに加えて…来春公開のお正月映画の宣伝プロモーションが本格的に始まってくる…
もうすぐそこまで次の年が迫ってきているのに。
目まぐるしい季節の移り変わりについていけなくなった感じでオレの時間は1ヶ月前から止まってるようにすら思える。
ホシノゲンロボットを頭の中で操縦する星野源はちょっと疲れてますので…自動操縦中です。
「今年の紅白はどんな感じで出んの?」
紅白…あぁ。紅白。
憧れの紅白歌合戦。
3年前から毎年出させて貰っている。
ありがたいことです…
生放送の音楽番組の出番待ちの楽屋でギターの亮ちゃんがオレに問いかけてきた。
ん?どーゆーこと?
「ほら、去年とか一昨年はさ。白組だからって真っ白な衣装だったじゃん?全員。今年はどーすんのかなぁと思って」
あー。そーだったねー。そう言われてみれば。
「今年ってあれでしょ?朝ドラの主題歌でしょ?」
そうそう。
「去年もその前もドラマ仕立てな感じだったじゃん。
今年もそうなら面白くない?」
そっか。ただ歌うだけじゃないかもしんないね。
「なんか誰もやらない格好で出るのよくない?」
たとえば?
「んー。なんか古き良き日本人…みたいな?」
いつの時代の話してんのよ(笑)
「あれだよ。大正ロマンみたいな。」
…おもしろいね。それ。やる?
「いいっしょ??」
石田くん、どう思う?
「そうですね。ありだと思いますよ?」
なんかゾクゾクワクワクした。
久しぶりだ。この感じ。
日本中がいや、世界でも見れる紅白歌合戦で。
日本人らしいことをやる。
かっこいいじゃん!
紅白に出るかどうかはまだ世間には発表されてない。
けども朝ドラに楽曲提供したのもあって出場はほぼ確定している。
だったら。どうせやるならワクワクするようなことをしたい。
「問題は衣装だよねぇ」
あ。オレつてあるかも。
「つて?」
着物のメーカーさん?そこの社員さんと友達。
「なんてとこ?」
名刺を探す。ちょっとくたびれた名刺。
「大手よね。ここ。」
そうなんだ。亮ちゃん着物詳しいの?
「そうね。けっこー好きよ?」
へぇー。ちょっと意外。
「これ女の人?」
名前を刺される。
亮ちゃん。めざとすぎ。
「じゃ僕は社長に聞いてみますね。」
あ。待って。連絡はオレにさせて?その社員さん。
石田くんはうちの社長に話通して、向こうの会社にも話通してもらって?
「へ?」
だーかーらー。
オレが連絡すんの。
「それは…如何なものかと…」
オレのつてだもん。
こーゆー事で口を出すことはあまりしない。
交渉とかめんどくさいから全て社長や石田くんに任せてる。
でも今回は譲れない。
それから2、3日たった。
うちの社長のOKも出て、先方の会社にも話を通して貰った。
かおるさんには後日担当から連絡することを伝えて貰うようになっている。
いつ電話を掛けようか。彼女はビックリしてくれるだろうか。せっかく電話するならもう少し早い時間に掛けたい。そうね。夜の8時とかさ。
浮き足立つ気持ちとは裏腹にオレはますます忙しいスケジュールに翻弄されていく。
試写会の挨拶とかコメントとか。
文筆家は確かお休みのはずだけど、パソコンに向う日も増えていた。
来年のイヤーブックの編集や、ロングインタビューの予定。写真撮影。
素敵な憧れの方々との対談。
夢のような時間とは裏腹なえぐい分刻みのスケジュール。石田くんの予定表は毎日真っ黒だ。
仕事は缶詰め。休みはとにかく泥のように寝るかゲームするか(深夜に帰ってくるからどうしても…ね。)
寝るのは4時とか。
仕事で疲れたホシノゲンのロボットは思考停止状態で、コントローラを握る。星野源はそれを操作する。
自動操縦からマニュアルに切り替えゲームの世界へと飛び込む。
あ。やばい。今日こそ電話しとけって石田くんにも釘を刺されたのに。またしそこなったぞ。
このままでは彼女にも迷惑がかかる。
明日こそ。明日こそ。
流石にね。まだ未明にこっちが起きてるからって掛けちゃダメでしょ?
とかなんとかいろいろ言い訳を自分にしてまたゲームにのめり込む。
ちょっと…いろいろ逃げたくなってんのかな…
またため息を飲み込んで深呼吸に変えた。
気づけば12月に入ってた。
精神的余裕を剥奪された状態で毎日仕事に出かける。
深夜に帰ってまたゲームする。
これが続いている。
来週あたりから少しスケジュールに余裕が出来てきた。
やっと…理想の時間に落ち着いて電話をかけれる。
怒られるだろうな…
月曜日。
今日は取材が2本。グラビア撮影1本。
それで終わり。朝からの予定だからきっと8時くらいには…終わりたいっ!!
と意気込んだものの、オレ1人の力でどうにかできるものでは無い。
やっと全ての予定が終わったのが…
夜の11時だった。
ごめん。かおるさん。電話するよ?
スマホの電話帳を開いて彼女の名前を探す。
コール音がなってる…寝てんのかなぁ…
1回切ってまたかけ直すか?
いや、そんなことしたらオレの方が折れてしまいそうだ。留守番電話にならない限り鳴らし続けよう…
「…ガタガタン!!!」
コール音が鳴らなくなったと思ったらすごい事件の音がしてびっくりした。
「もしもし!」
大丈夫ですか?すごい音しましたよ??
「ごめんなさい!電話落としちゃった!」
ボクもよくやります(笑)
よかった。そんなことで。
いろいろ隙が無さそうなかおるさんもそんなことあるのね…
「ちょっと酔っ払ってるからですね…すみません。」
かおるさんお酒飲むんだ。
「嗜む程度ですけどね…」
ボクはノンアル専門です。
「飲めないんですか?」
最近はすこーしなら。でも酔うとダメ。
「ふふ。可愛いんですね。」
可愛くはないです!使い物にならなくなるから!
「今日はお仕事終わりですか?」
さっき…やっと雑誌の取材が終わって今楽屋です
「遅くまで大変ですね…」
もー慣れま
「星野さん!わたしを指名したってどういうことですか?
先方から連絡あるって上司からは聞きましたが、連絡ないし。
どうなってるんでしょうか??」
急にボリュームが上がった。それまで落ち着いててちょっと酔った感じがホンワカしてて可愛かったかおるさんのスイッチがカツン!と入ってオレの言葉を遮った。
…すみません。年末年始の音楽番組でみんなで着物着たら面白くない?って話になって。ついついかおるさんの名前を出しちゃったんです。連絡はボクがすることになってたんですけど、バタバタで気づいたら4時とかざらで。すみません…
「わたしの名前出して大丈夫だったんですか?」
あ、ちゃんと会社名も言いましたよ?事務所の許可も取ってます。ただ連絡するってのがマネージャーにって話になりかけて。いや、そこはボクが!って押し通しちゃったんです。
「それで…今の今ですか。
何考えてるんですか!それでも社会人ですか!
こっちにも準備ってものがあるんです!
どんな着物にするのかとかコンセプトとか。
いろいろ決めてもらわないといけないことたくさんあるんですよ!?」
やばい。怒らしてしまっている。やっぱりもっと早くかけるべきだったんだよなぁ…
それにしても…よく通る声だ。
気づいたら20センチくらい耳から離してた。
スピーカーで聴いてるみたい。
…かおるさん。いい声してますねー。
「何を呑気に!
こっちは今か今かと連絡を待ってたんです!
もう年末まであと2週間切ってるんですよ?」
ほんとにごめんなさい。
それは謝ります。コンセプトは決めてあります。
明日あの喫茶店で待ち合わせしてもらえませんか?
ボクの考えた案を聞いて貰いたいんです。
「明日…明日かー。」
難しいですか?
明日は火曜日。午前中に取材が終わったらあとはラジオまで何もない。
「いえ。大丈夫です。」
ならよかった。ちょっと早く行けそうなんで…4時くらいはどうでしょう?
「わかりました」
ビジネスライクなかおるさんはキビキビカッコいいんだろうな。酔っ払っててもデキル女感が滲み出ている。
じゃまた。明日。おやすみなさい。
「はい。おやすみなさい。」
電話を切ってすぐに石田くんが呼びに来た。
「星野さんお待たせしました。帰りましょう。」
はーい。
「今誰と電話してたんですか?なんか怒られてませんでした?」
え?聞こえてたの?
「隣の部屋ですから…中身まではわかりませんでしたけど。」
紅白とCDTVの衣装担当さんと話してたの。
「やっとですか…間に合いますか?」
多分ね。明日打ち合わせすることになったよ。
「明日?」
そ。明日。
あのオムライスのお店で。
「なんですかー。僕は連れてってくれないのに。」
そこで知り合ったんだもん。
「星野さん…信用してますからね?」
どーゆー意味よ(笑)
明日。かおるさんはどんな着物姿を見せてくれるんだろう。
ただ普通の女に会いに行くんじゃない。
洗練された(着付けのできる)大人の女性だ。
仕事上たくさんの女性と関わることはある。着物も着せてもらうことは今までもあった。
でも自らが着物を着てる人はいなかった。
楽しみなんだけどな…うなじとか。袖の中とか…見えそうで見えなかったり、衿のぬき具合とか。ちょっと物を取る仕草なんて洋服では絶対見れない。
そりゃミニスカートから理想の脚が出てたら見ますし、興奮もします。
でも着物は隠されてるから。そこに見えない物を想像してしまうのよ。
男の妄想を極限まで高めてくれる。
AVの見すぎとか聞こえない。
いいの。エロいの。
脱がしたいと思わないことはない。でも想像だけで興奮出来るのが着物。それが民族衣装ですよ?どんだけエロいのよ。日本人ってやつは。
そんなことを考えてニヤニヤしてたらしい。
石田くんに気持ち悪いって言われてしまった。
明日が今から楽しみで仕方ない。
ブー。
スマホが震えた。
誰だ?寺ちゃんかな?
画面を見た。あれ?かおるさん…
『先程は怒鳴り散らして申し訳ありません。
電話ありがとうございます。おやすみなさい。』
怒鳴り散らしてるって。そんなことないのに。
やっぱり可愛らしい人だ。
『こちらこそ。連絡が遅くなって本当に申し訳ないです。明日会えるの楽しみにしてます。おやすみなさい。』
送信ボタンを押した後で…ウキウキしてるのはオレだけだったらどうしようと気づいてしまった。
彼女からしてみれば。ホシノゲンは芸能人。
それも結構(自分で言うな)有名だし人気もある。
そんな奴がなんで私なんかに…とか思ってるだろうな。
でもホシノゲンの中身の星野源は…確実に惹かれているのは確かだ。
彼女はきっと…オレの作品や楽曲を知らないんだろうな。会話をしててもそんな話は全然出てこない。
見てほしい。聴いてみてもらいたい。そんな欲がない訳では無い。それは別に今じゃなくたっていい。
彼女がどんな音楽が好きなのか。どんな本を読むのか。そんなことの方が知りたい。
たわいもない会話の中で心が少しずつ落ち着きを取り戻す感じ。特別な才能を持ってる訳ではないんだろう。ただ、オレとの波長が何となく合うのがとてつもなく居心地が良くて。
日々の嫉み
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